腰部脊柱管狭窄症

以下は背骨の断面図です。位置的には腰部の背骨。仙骨より少し上の方を見ているとお考えください。仙骨は尾てい骨のすぐ上にある骨です。このイラストは良い背骨の状態と悪い背骨の状態を比較しています。この2つの背骨断面のマンガ絵から、今回紹介する症状を見ていきましょう。

脊柱は単純に背骨のことだと解釈しくてださい。
左の正常な脊柱をご覧ください。中を通っている脊柱管はきれいに通っています。これに対し、右の脊柱は脊柱管が椎間板や椎体に挟まれ狭くなっています。これはとてもよくない状態です。なぜならば、脊柱管の中には脊髄が収まっています。脊髄は脳と体をつなぐ大事な神経の束です。

腰部脊柱管狭窄症は右の図の背骨の状態のことです。先述の通り、脊髄を収めた脊柱管が挟まっています。狭窄状態はこのことを言います。腰の脊柱管が狭まり諸症状が起こることを腰部脊柱管狭窄症と呼びます。具体的には、下肢につながる神経や血管が圧迫され、痛み、しびれなどを引き起こします。

このような症状は椎間板の変性、ヘルニアの脱出、すべり症、骨棘、黄色靱帯の肥厚、加齢による変形などで起こります。

再び右のイラストに着目してください。狭窄は全ての骨の段で一様に起こっているわけではなく、下の方の段の背骨のほうがより狭窄が著しいです。個人差もありますが、4番と5番の間で起こりやすいです。5番は仙骨のすぐ上の背骨の段です。4番ならその上の段です。この組み合わせは特に上半身の重みを支えているので、骨に変形する力が加わりやすいのでしょう。

症状の例

特徴的な症状として間欠性跛行が挙げられます。間欠性跛行がイメージしづらい方は、正座で足がしびれた経験を思い浮かべてください。正座時ふくらはぎの中を走る血管や神経が圧迫され血液不足になると、足がジンジンして痛みやしびれがでます。足を崩すと楽になります。

この状態を狭窄症に置き換えると、立位時には神経や血管が圧迫されており、そこに歩行による負荷が加わる。すると神経や血管が持続的に圧迫され、血流不足になりジンジンとした痛みやしびれがでます。この後少し身体を丸め休むことで、また歩けるようになるのです。

さらに症状が悪化することで、両足のしびれ、麻痺、灼熱感、足裏の感覚異常、踵足(つま先立ちができない状態)、下垂足(ふくらはぎに力が入らず足先が垂れ下がってしまう状態)が生じ、排便、排尿障害などの膀胱直腸障害を起こすこともあります。上記の症状の場合は予後が悪く手術を検討することになりますので、早期発見、早期治療が必要です。

重症度を測る物差しとして、腰部脊柱管狭窄症には3つのパターンがあります。
以下のイラストをご覧ください。椎間板は先のイラストにも出てきた椎体と椎体の間の軟骨の一種です。この図は椎間板の断面を見ています。先の背骨を今度は真上から見下ろし、内部を透視したものと捉えてください。

ふたたび、良い背骨と悪い背骨の断面です。左側のよい方は椎間板の真下にあるそれぞれの神経器官にわるさを働いていませんが、右のわるい椎間板は真下の各神経の束を圧迫させています。神経の束は狭窄されるべきではありません。

神経根も馬尾も脳とからだをつなぐ大事な神経の束です。このうち馬尾の狭窄は先に挙げたような症例と関わりが深く、日常の異変に早く気づくのが大切です。

症状の悪化を防ぐには

それでは、どのような姿勢の時に症状が悪化しやすいのか見ていきましょう。

先ほどの間欠性跛行のイラストで③の「しばらく休むと楽になる」と説明しました。なぜ少し休むと楽になるのでしょう。

これは少し専門的な話になりますが、硬膜外圧(脊髄を包む硬膜の外側の圧力)が和らぐからです。逆に腰を反らせたり、立っている姿勢が長いことで脊柱管内部の圧力が高まり、神経を圧迫することで②の「足に痛みやしびれが出て歩けなくなる」の状態になるのです。

ゆえに、うつぶせになり腰をそらしスマホや本を読む方は注意が必要です。腰部脊柱管狭窄症の方は、臥位の姿勢で仰向けや横向きで痛みのない姿勢を探してみてください。

<おすすめの姿勢>

痛みが強い側を上にして、腰を丸め横向きで休みましょう。この姿勢のいいところは、脊柱管や椎間孔が広がることで、神経や血管の圧迫を緩める効果があることです。少し楽になったら、同じ姿勢でお腹をへこませるように、両腕で膝を抱え胸にゆっくり引き寄せて腰を丸めていきましょう。

腰椎が自然と丸まり骨盤が後傾することで、同じように脊柱管が広がります。できる範囲で行いましょう。

反り腰

一見、姿勢がよく見える方でも、よく見ると反り腰の方が結構いらっしゃいます。なぜ反り腰がよくないのでしょうか。

腰の骨は5つあり、少し前方にカーブした前弯構造をとります。骨盤がお辞儀するように前傾することで、前腕のカーブが強まり反り腰を招きます。

気になる方は、壁を背にして頭、お尻、かかとをつけ、手の平を入れてみましょう。手のひらが1枚入るくらいの隙間なら正常で、それ以上であれば反り腰を疑います。

背骨は椎間板と、左右の椎間関節の3点で支持されます。加齢により椎間板の弾力が減少すると、反り腰の方は椎間関節に圧がかかります。

それを補おうと黄色靭帯がたわみ負荷がかかり、黄色靭帯が厚くなり、脊柱管が狭まることで、狭窄症の症状を悪化させるのです。

すべり症

すべり症では椎間関節の圧縮が続くことで骨が変形し骨棘できます。さらに前弯のカーブが強くなり椎間が前にすべりやすく圧を逃がそうとした結果、腰椎すべり症を招くこともあります。

先ほど腰を反らすことで、硬膜外圧が高まる説明をしました。椎間板内部の圧力も、腰には大きな影響を与えます。特に、座り姿勢から深くかがむ動作、中腰で荷物を持ち上げる動作、こたつに入るように座って足を投げ出す姿勢は椎間板の圧力が高まる姿勢になります。

スポーツ医学の考えでは、ジョイント・バイ・ジョイント・セオリーという考えがあります。これは体の関節には可動性が必要な関節(モビリティ関節)と安定性が必要な関節(スタビリティ関節)が交互に作用しているという考え方です。以下モビリティ関節をМ、スタビリティ関節をSと称します。

これを骨格にあてはめ考えていくと、上部頸椎はМ、下部頸椎はS、胸椎はМ、腰椎と仙骨はS、股関節はМ、膝関節はS、足関節はМ、足部はSとなります。

田植えをしていて腰に負担をかけないようにするには、胸椎、股関節がスムーズに動く柔軟性が必要です。反り腰猫背になり、肩が前に出て背中が丸まった姿勢では胸郭が狭まります。

結果、肺が膨らまず呼吸が浅くなり酸素を十分に取り込めないので腹圧が下がり腰椎の不安定化を招きます。そして股関節が固いことで、腰椎が過度に動くことで椎間板に負担がかかりヘルニアや狭窄症を招くのです。

体幹を鍛える

体幹を鍛えるには、体幹の安定に欠かせない腹横筋を鍛える必要があります。腹横筋はコルセットの役割を果たし、腹圧が高まることで椎間板がつぶれにくくなり腰椎が安定します。

ドローイング

ドローイングでは呼吸を意識する感覚が大事です。仰向けになり両膝を立て、お腹に手を当てます。鼻から息を吸いお腹が膨らむのを手でモニターしましょう。

そこから、ふぅーっと口から息を吐きながら、へそをお腹の中に入れるように息を吐き切ります。息を吐き切ることで、自然と鼻から息を吸い込んだ折、お腹が膨らむ感覚が身に着けられると思います。

副交感神経を刺激し、リラックス効果もありますので寝る前に行うのもよいでしょう。

キャットアンドカウ

ヨガ、ピラティスでもよく行われます。背骨の動きを一つ一つ、意識して行いましょう。

両手を肩の下に、両ひざを股関節の真下につき足を腰幅に開き四つん這いになります。

口から息を吐きながら、肩甲骨を背中の中央に寄せるように背中を反らせ、胸を開き骨盤の前傾を意識し(肛門を後ろに向けるように)正面を向き10秒キープします。

この時、腰は反らさず、お腹に引きいれた状態で呼吸を止めず行います。

口から息を吐きながら、背中と腰を上に引き上げ骨盤の後傾を意識し(肛門を前に向けるように)背骨全体を丸め10秒キープします。

この時、両手の間からおへそを覗き込むように意識します。同じように呼吸を止めずに行いましょう。

日常的な予防

腰部脊柱管狭窄症の予防には日常生活の、動作、姿勢が大事です。例えば、イスに浅く腰掛け背もたれに寄りかかったり、やわらかいソファに体を預け腰かけている方は座骨が前に滑ることで骨盤が後傾し、下図の症状を招きます。

女性は横座りでくつろいでいる方も多いでしょう。一見楽な横座りですが片方の座骨に体重が偏り、ゆがみを招くことで側弯症などの変形性関節症にもつながるので注意が必要です。日常生活を見直し、将来の腰痛の予防に備えていきましょう。

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